ピアノロール考 - www.78rpm.net

column

Great Pianists of the past

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Friedrich Gernsheim
Friedrich Gernsheim (1839-1916)



Kleeberg on Welte-Mignon
Clotilde Kleeberg
[Welte-Mignon 457]

Kleeberg's 78rpm from Piano Roll
Kleeberg's 78rpm
from Piano Roll


Tudor 7104
Welte-Mignon Piano Hotel Waldhaus Sils-Maria/Var
[TUDOR 7104]


KBI Debussy Piano Rolls
Keyboard Immortals
Claude Debussy
[KBI 3A005S]


Scriabin Piano Rolls
Alexander Scriabin The Composer as Pianist
[Pierian 0018]

最近、ロールからのCD復刻が盛んな様だ。どうしても78rpmよりもその伝達精度に劣るロールではあるが、そのアンソロジーの組み方によっては非常に興味深いものになる可能性を含んでいる。


最近、78rpm復刻が寂しくなってきた分、ピアノロールのCD化が盛んなようだ。クラシック・ピアノロールを網羅した Larry Sitsky著「The Classical Reproducing Piano Roll」をパラパラめくると、78rpmに録音を残していない錚々たるピアニスト達が名を連ねていて思わずタメ息が出る。

例えば、作曲家としても再評価されつつある Friedrich Gernsheim(1839-1916)は Welte-Mignon に3曲の自作自演を残し、ショパン楽譜校訂でも高名な Hermann Scholtz(1845-1918)は、ピアノ協奏曲第2番2楽章のショルツ自身の編曲による独奏版、ノクターン、ワルツ、マズルカなどを含むショパン演奏を Triphonola に、アントン・ルビンステイン、タウジッヒ、そしてリストに習ったリシア生まれの女流ピアニスト Vera Timanoff(1855-1942)(メロディアLP復刻有)は Welte-Mignon と Artecho に、ライネッケとリストの弟子で18年間で4000回以上コンサートを行ったアメリカの女流ピアニスト Julia Rive-King(1857-1937)はリストのハンガリア狂詩曲第2番と自作を Recordo や Apollo、Artheco に、有名なオクターブの達人アレキサンダー・ドレイショックの甥 Felix Dreyschock(1860-1906)(CD復刻有[TUDOR 7104])はロマンティックな小品を Welte-Mignon に、クララ・シューマンの弟子で作曲家のシリル・スコットを教えたイタリア生まれの Lazzaro Uzielli(1861-1943)(CD復刻有[TUDOR 7104])は Welte-Mignon に小品を5曲、同じくクララ・シューマンの弟子 Clotilde Kleeberg(1866-1909)(ロールから78rpmへのトランスファー有り)は見事なショパンやその他小品を Welte-Mignon と Triphonola に、フランスの大作曲家 Gabriel Fauré(1845-1924)も代表作のノクターンを3曲を含む自作を Welte-Mignon、Triphonola、Ampico に(バルカロール第一番、前奏曲、ロマンスは復刻有)、揚げ句の果てにはポーランドの作曲家兼大ピアニストの Moriz Moszkowski(1854-1925)の自演ロール(真偽のほどは未確認らしいが...)などキリがない程残されている。これらのピアニスト達がみんな78rpmに録音していたらと考えると、むしろピアノロールなんて発明が無かったほうが!と、つい思ってしまう。

19世紀生まれのピアニストを研究する以上、ピアノロールは避けて通ることは出来ない重要な資料だ。しかし、78rpmを聴くように、素直にそのピアニストの演奏として受け入れるのは難しいのである。そう感じる原因は「録音時の環境(使用したピアノと演奏された部屋のアンビエンス)で再生されていない」という事、私たちの耳に届く音は「実際に弾かれて出た音ではない」という2点に尽きると思う。

高校生の頃、スクリャービンの自作自演の Welte-Mignon ロールをFM放送でエアチェックした。「スクリャービン生誕100周年記念」に製作されたメロディア盤からの放送で、収録場所もスクリャービンが実際にピアノを弾いていた残響の多い部屋だったと記憶している。曲目は「練習曲嬰ニ短調作品8-12(DIW Classics DCL-1001収録)」だったが、この作曲家本人による演奏は、ホロヴィッツやシモン・バレーレさえも寄せ付けない決定的名演である。スクリャービンはピアノが下手だったというフォービン・バウアーズのような研究者もいるが、これを聴くとバウアーズの耳は信用できないと誰もが思うだろう。その後、銀色ジャケットの KBI盤でステレオ録音の音源を入手し、メロディア盤と聴き比べてみた。演奏時間やフレージングは一緒なのだが、まったく全体の印象がちがう。あおの素晴らしい演奏が、音質の鮮明な KBI盤で聴くとどうもピンと来ないのだ。いろいろ考えた末、結局音質の問題だという結論から、KBI盤をモノラルにしてイコライザー処理を施し、長めの残響設定でデジタルリバーブを通してみた。その結果、ほぼメロディア盤と同じ印象になったのである。

追記:その後、インターネット上にスクリャービンのTriphonolaへのロール録音が続々公開された。その中にはピアノ・ソナタ第二番、第三番が含まれているのは驚きである。まだ、それらが完全な形でCD化されていないことが残念でならない。(2014年現在)

もちろんピアニストは使用するピアノの状態や部屋の響きを察知し計算したうえで、奏法やペダリングを変え適応させる。この能力を現在のピアノロールの再生方法では全く反映する事ができない。それには「どのピアノで、どの部屋(スタジオ)で、そのロールが録音されたか」という記録が明確に残っていなければならないからだ。
また、レーベルに時たま表記されているように、78rpm では、ベヒシュタイン、プレイエル、エラール、スタインウェイ、ベーゼンドルファーなど、ピアニスト達は自分のお気に入りのピアノをレコーディングに使用している場合が多い。それに対して、現在復刻されているロールは、大抵の場合その所有者のピアノ一台で、パハマンも、ブゾーニも、サン・サーンスも、同じく再生されてしまう。物理的な事を考えると、致し方ないのも当然であろう。しかし、いかにノイズがなくても、テンポと劣化の有るフレージングだけで彼らのピアニズムを想像するのは難しいと、残念ながら云わざるを得ないのである。試しにパハマンの同じ曲目の演奏を、78rpm とロールで聴き比べてみると良い。魅力の差は歴然である。

と、ピアノロールに対して否定的な意見ばかり書いてしまったが、それでも私はピアノロールに対して興味を持ち続け、音源を集め続けるだろう。要は、78rpm に録音していないピアニストや曲目をメインに復刻を心掛ける事こそが、ピアノロールの資料的価値を活かすベストな選択だと忘れてはいけないと思う。




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