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モニク・ド・ラ・ブルショルリ
モニク・ド・ラ・ブルショルリ
Monique de la Bruchollerie
(1915-1972)
CD復刻で再評価の高まるブルショルリ。

Monique De La Bruchollerie: Inédits 1959-1962
モニク・ド・ラ・ブルショルリのCD
INA IMV063
ブルショルリーの放送録音などを納めた貴重なCD。





イシドール・フィリップ
イシドール・フィリップ
Isidor Philipp
(1863-1958)
わずかな録音しか残さなかったフランスの歴史的ピアニスト。多くの名ピアニストを輩出した偉大な教育者でもあった。





「フレンチ・ピアニズム・その1」 ~ Monique de la Bruchollerie ポーランド、ロシアと共に、体系的に数多くの名ピアニストを輩出してきたフランス。 ちょっと思い出しただけでも、マルモンテル、サン=サーンス、ディエメ、プーニョ、マリア・ロジェ=ミクロス、フィリップ、リスラーなど、錚々たる歴史的なピアニストが勢揃いするが、当サイトでは今回も比較的取り上げられることの少ないフランスのピアニストたちを数ページに分けて紹介していきたい。


フレンチピアニストいつもこのアンケートの結果を興味深く拝見しているが、今回もとても面白い結果だった。ご協力、ありがとうございます。 さて今回のTOPは、最近CD復刻で再評価高まる Monique de la Bruchollerie(1915-1972)。 モニク・ド・ラ・ブルショルリは、パリでイシドール・フィリップ、アルフレッド・コルトー、ウィーンでリストの高弟エミール・フォン・ザウアー、そしてベルリンではショパンの孫弟子ラウル・フォン・コチャルスキに教えを受けた女流ピアニストで、第三回ショパン・コンクールでは第7位に入賞している。なんといってもその超絶技巧は彼女の最大の武器であり、恐らくその技巧はヨーゼフ・ホフマン風といっても過言ではない。残念ながら自動車事故により演奏活動中断を余儀なくされるが、これほどヴィルトゥオジティを持った女流ピアニストは後にも先にもいないのではないだろうか。しいて云えば女性らしい風貌だが時折冷たい演奏をすると評されたアネッテ・エシポフあたりがブルショルリの演奏にもっとも近いピアニストだったのではないだろうか。

ブルショルリの超絶技巧はHMVの78rpmにも残されており、ショパン「バラード第4番」や、サン=サーンス「トッカータ」を聴くと、その指捌きやドラマティックなダイナミクスを聴くだけで爽快な気分になる。そこに下手な感情がないのがさわやかなくらいだ。素っ気ないほど磨き抜かれたパッセージも、無感情と云うよりは何か独特の美学を感じさせる。
そしてブルショルリの演奏にもう一つの重要な魅力を添えているのは、フランス楽派特有のあの清楚な音である。これによって、仏HMVにも残されているハイドン「ソナタ第34番ホ短調」、仏Pachificの78rpmにあるスカルラッティ=タウジッヒ「パストーラルとカプリッチョ」、メロディア盤にあるクレメンティ「ソナタ」のような古典派の楽曲にも、独特の透明感と気品を漂わせることに成功している。


その後、チャイコフスキ「協奏曲第1番」、モーツァルト「協奏曲第20番&第23番」、ブラームス「協奏曲第2番」、ラフマニノフ「パガニーニ狂詩曲」、フランク「交響的変奏曲」などの大曲を1950年代のLP盤に残しており、我が日本でも発売されていたが結局買い逃してしまった。最近、モーツァルト、チャコフスキ、フランク、ラフマニノフがCDで再発された。あらたに、ベートーヴェン「協奏曲第3番」がCD化されたのも嬉しい。

また、あるコレクターのご好意で聴かせて頂いた未発表のドイツ・ラジオ放送録音などには、ショパン「舟歌」、サン=サーンス「トッカータ」、シマノフスキ「主題と変奏」、ラフマニノフ「協奏曲第3番より第三楽章の抜粋」、モーツァルト「きらきら星変奏曲」、オルガン音楽の作曲で名を残すクロード=ベニーニュ・バルバートル [Claude-Benigne Balbastre](1727-1799)による「ロマンス ハ長調」がある。
やはりショパン「舟歌」は聞き物で、大きな音楽の掴み方とダイナミクスは健在だ。一瞬、速めのテンポかなと思うが、グイグイ引き込んでいくような物語があり、ディテールにも気を配った美しい演奏に、7分半の演奏時間もあっという間に過ぎてしまう。弛緩せず、音楽から気を逸らすものが一切ない。
また、シマノフスキのシリアスな変奏曲では、円熟味を増したブルショルリーの深い精神性を感じさせる演奏となっている。当時のフランス・ピアノ界に思いを馳せてみても、すでにこの時点でブルショルリーが完成されたピアニストであった事は疑いもない。(当時フランスでは、マドリーヌ・ド・ヴァルマレーテ [Madelene de Valmalète ] 、エンマ・ボワネ [Emma Boynet] 、マグダ・タリアフェロ [Magda Tagliaferro] 、イヴォンヌ・ロリオ [Yvonne Loriod] 、イヴォンヌ・ギルベール [Yvonne Guilbert] 、カルメン・ギルベール [Carmen Guilbert] 、バベス・レオネ [Babeth Leonet] 、ジネット・ドワイヤン [Ginette Doyan] 、マリー・テレーゼ・フルノー [Marie-Thérèse Fourneau] など、素晴らしい女流ピアニストたちが活動していた。)

先日、仏INAからブルショルリーの素晴らしいCDが復刻された。ブルショルリの横顔とエッフェル塔を曲線状に配置した斬新なレイアウトと、ビビッドなイエローグリーンのジャケットは、フランスらしい粋なデザインでなんともほほえましい。このCDには未発売のライブ音源がメインで収録されており、ファンには貴重なドキュメンタリーとなっている。曲目は、ハイドン「ソナタ第48番ハ長調」、モーツァルト「幻想曲ハ短調」、ショパン「夜想曲第18番」「ワルツ第11番、第13番、第14番」「マズルカ嬰ハ短調」「バラード第1番」、フランス近代作曲家のアンリ・デュティーユ「ピアノ・ソナタ」などのライブ音源と、HMVの78rpmから2曲のボーナス・トラック。
まず個人的に面白かったのはショパン「夜想曲第18番」で、なんともヒンヤリとした感触は月に照らされた青白い鍵盤を思わせる。ショーンバーグの本に登場するリストの高弟ラファエル・ヨゼフィの弾く「夜想曲」はこんな感じではなかったのだろうか。厳密にインテンポでは無いのだけれど、カチッとした印象が独特である。続くワルツもそれぞれ面白いが「第13番変ニ長調」は絶妙のテンポが最後まで守られ、穏やかな色彩がとても魅力的だ。このワルツは、ブルショルリやアルトゥール・ルビンシュタインのステレオ盤の様に、インテンポでひっそりと弾いた方が原曲の美しさが際立つタイプの佳曲だと多くのピアニストたちは知るべきだ。
期待される「バラード第1番」は、HMVの「バラード第4番」で聴かせたあの爆発は無く絶頂のポイントを逃したような不完全燃焼を感じるが、むしろデュティーユの「ピアノ・ソナタ」でブルショルリのピアニスティックな本領が発揮されている。ちょっとフランスのプロコフィエフとでも言いたくなる様な作品だが、調べてみると意外と有名な曲らしく、近年にもジョン・オグドンなど多くのピアニストによる録音があるようだ。ブルショルリは1916年生まれのデュティーユと親交があったようで、作曲家の妻であるジュヌヴィエーヴ・ジョワ [Genevieve Joy] と共に初演を行っている。78rpmから選ばれたボーナス・トラックは、十八番だったサン=サーンス「トッカータ」と、師であったイシドール・フィリップの編曲によるシューベルト「ワルツ」で、ブルショルリゆかりの曲目という事であろう。

ブルショルリはレパートリーの広いピアニストで、バッハ、メンデルスゾーン、シューマン、リスト、ファリャ、プロコフィエフ、ショスタコーヴィッチなども演奏していた。何かしらまだ録音が残されていると思うので、INAより引き続きのCD化を期待して止まない。




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